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Last Updated on 2025.12.5
私たちが普段メールを送受信する際に意識するのは、「差出人」と「宛先」です。しかしその裏側では、「エンベロープFrom(Envelope From)」と呼ばれる送信元情報がやり取りされています。
エンベロープFromは、メールの配送を管理するために使われる送信元情報です。また、送信ドメイン認証の一つであるSPF(Sender Police Framework)の検証対象として、なりすましメール対策においても重要な役割を担っています。
このように、エンベロープFromはメールソフトに表示される「差出人(ヘッダFrom)」とは異なるものですが、その違いを正確に理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、エンベロープFromの仕組みやヘッダFromとの違い、なぜ重要なのか、そして実際の確認方法まで、メール配信の技術的な視点からわかりやすく解説します。
目次
エンベロープとヘッダの基本を理解しよう
メールが送受信される際には、「エンベロープ」と「ヘッダ」という、役割の異なる2種類の情報がやり取りされています。ここでは、メール送受信の仕組みを踏まえながら、それぞれの意味と違いを分かりやすく解説します。
メール送受信の仕組み
メールは、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)という通信ルール(プロトコル)に従って、受信側のサーバーへ届けられます。このとき使用されるのが、配送のための情報である「エンベロープ」と、受信者に表示される情報である「ヘッダ」です。
まずは、それぞれの役割を見ていきましょう。
エンベロープとは?
エンベロープは、メールの配送経路を制御するための情報で、郵便における「封筒」の役割を果たします。サーバー間の通信(SMTP)では、メールの中身は確認されず、エンベロープに記載された宛先や差出人の情報だけをもとに配送が行われます。
宛先のアドレスが存在しないなどの理由で配送できなかった場合は、封筒に記載された差出人である「エンベロープFrom」宛にエラーメール(バウンスメール)が返送されます。この仕組みにより、配送エラーの通知先を特定し、送信元の確認を正確に行うことができます。
ヘッダとは?
ヘッダは、メール本文の前に付加されるメッセージ情報で、受信者がメールソフトで確認できる部分です。「From(差出人)」「To(宛先)」「Subject(件名)」「Date(送信日時)」などが含まれ、メールの概要を伝えます。
このうち「ヘッダFrom」は、受信者に表示される差出人として扱われますが、配送に使用される送信元情報(エンベロープFrom)とは異なります。ヘッダFromはあくまで受信者に見せるための差出人であり、実際の配送制御には関与しません。

ヘッダFromとエンベロープFromの違いについては、次の章で詳しく解説します。
エンベロープTo/From と ヘッダTo/Fromの違い
「エンベロープFrom」と「ヘッダFrom」は、どちらも「差出人」を示す情報ですが、異なる目的と役割を持っており、時には別のメールアドレスが設定されることもあります。
また、「エンベロープTo」と「ヘッダTo」も同様に、配送上の宛先と表示上の宛先という違いがあります。
こうしたメール配信の仕組みを理解することは、エラー原因の特定やなりすまし対策を行う上で非常に重要です。
| 項目 | エンベロープFrom (MAIL FROM) | ヘッダFrom (From:ヘッダ) | エンベロープTo (RCPT TO) | ヘッダTo/Cc/Bcc (To:/Cc:/Bcc:ヘッダ) |
|---|---|---|---|---|
| 主な役割 | 実際の送信元アドレスの特定、SPF認証の検証対象、エラー通知先 | 受信者に表示される差出人 | 実際の配送先アドレスの指定 | 受信者に表示される宛先、CC、Bcc(Bccは他の受信者に非表示) |
| 指定箇所 | SMTP通信時のMAIL FROMコマンド | メール本文のヘッダ内From:フィールド | SMTP通信時のRCPT TOコマンド | メール本文のヘッダ内To:、Cc:、Bcc:フィールド |
| 受信者の可視性 | 通常は非表示(ヘッダ内のReturn-Pathで確認可能) | メールソフトで「差出人」として表示 | 通常は非表示 | 「宛先」「CC」として表示(Bccは他の受信者には表示されない) |
| 技術的利用 | SPF認証、バウンスメール処理、配送経路制御 | 主に表示用。DKIMやDMARCで参照される | 配送制御、メーリングリスト展開など | 主に表示用 |
| 設定例 | system-bounce@server.example.com | “株式会社サンプル” <contact@sample.co.jp> | user-a@example.net, user-b@example.org (Bccも含む) | To: user-a@example.net, Cc: user-b@example.org |
エンベロープTo(Envelope-To)とは?
エンベロープToは、メールの配送先を指定する情報です。郵便では封筒に書かれた宛先にあたります。この宛先が正しく存在していれば、メール本文やヘッダの内容に関係なく配送が行われます。
エンベロープFrom(Envelope-From)とは?
エンベロープFromは、実際にメールを送信した送信元を示す情報で、封筒に書かれた差出人に相当します。配送が問題なく完了すれば、特に参照されることはありません。何らかの原因により配送エラーが発生した場合には、エンベロープFromのアドレス宛にエラーメール(バウンスメール)が返されます。
ヘッダTo(Header-To)とは?
ヘッダToは、メール本文内のヘッダに記載される宛先情報です。郵便では便箋に書かれた宛先にあたり、「To」や「Cc」の欄に表示されます。実際の配送はエンベロープToの情報をもとに行われるため、ヘッダToやCcに記載があっても、配送経路には直接影響しません。
ヘッダFrom(Header-From)とは?
ヘッダFromは、受信者に表示される差出人情報であり、便箋に書かれた差出人にあたります。一般に、私たちがメールソフト上で「差出人」として目にするアドレスです。ただし、この情報はメールの仕様上、送信者が自由に設定できるため、実際の送信元(エンベロープFrom)とは異なる可能性があります。
エンベロープとヘッダが分かれているメリット・デメリット
そもそも、なぜメールには「エンベロープ」と「ヘッダ」という、2つのTo/Fromアドレスが存在しているのでしょうか?この章では、エンベロープとヘッダを分けて管理することで得られるメリットと、そこから生じるデメリット(リスク)について整理します。
メリット①:BCC機能が使える
ヘッダToとエンベロープToが分かれていることで、BCC機能が利用できます。
BCCでは、送信先のアドレスをエンベロープToにのみ設定し、ヘッダToには記載しません。これにより、他の受信者にはBCC宛先が表示されず、宛先を非公開にしたまま、同じメールを複数人に送信できます。
メリット②:代理送信など、柔軟なメール配信が可能になる
ヘッダFromとエンベロープFromが分かれていることで、外部サービスを利用した代理送信など、柔軟なメール配信が可能になります。

例えば、ECサイトを運営するA社が顧客に「セールのお知らせ」メールを一斉配信する際、自社サーバーではなく外部のメルマガ配信サービスを利用するケースを考えてみましょう。
実際の送信はメルマガ配信サービスのサーバーから行われますが、差出人としてそのサービス名が表示されると、受信者は誰からのメールなのか分からず混乱してしまいます。
そこで、エンベロープFromには実際の送信元(メルマガ配信サービス)を、ヘッダFromには受信者に見せたい差出人(ECサイトA社)を設定することで、配送上の整合性を保ちながら、自社名義でメールを送信できます。
この仕組みにより、外部サービスを利用した代理送信など、多様な送信形態への対応が可能になっています。
デメリット:なりすましのリスク
一方で、ヘッダFromとエンベロープFromの情報が異なっていてもメールを送信できる仕組みを悪用した、「なりすましメール」のリスクもあります。
前述の通り、メールの配送処理ではヘッダFromの情報は参照されず、エンベロープFromの情報のみが使用されます。そのため、ヘッダFromの差出人アドレスを偽装して送信すれば、受信者には本物の送信者を装ったメールが簡単に届いてしまいます。
こうした手口によるなりすましメールは、標的型攻撃やフィッシング詐欺などに利用され、深刻な被害につながるケースも少なくありません。
なりすましメールの仕組みや、対策として有効な送信ドメイン認証(SPF・DKIM)については、以下の記事で詳しく解説しています。
なりすましメール対策「SPF」「DKIM」の具体的な確認方法|ベアメールブログ
エンベロープ From の設定と確認方法
「自分が送信しているメールのエンベロープFromが、どのアドレスに設定されているかを知りたい」という方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際に受信したメールを開いてみても、「エンベロープFrom」という項目は表示されません。
この章では、エンベロープFromが設定される仕組みと、その確認方法を解説します。
エンベロープの情報はどのように設定される?
エンベロープFrom情報は、メールクライアントが設定する場合とメールを配送・転送する際にMTA(Message Transfer Agent)が設定する場合があります。メールクライアントがMTAへ送信する際にエンベロープFromを指定するのが基本的な仕組みです。ただし、MTAの配送方法によってエンベロープFromが書き換えられるケースもあります。そのため、自分が利用しているメール環境ではどのような設定になっているのかを確認する必要があります。
手軽な方法として、実際にメールを送信し、受信者側でエンベロープFromがどのように記録されているかを確認してもらうという手もあります。
エンベロープFromの確認方法
受信したメールからエンベロープFromを調べる場合は、メールヘッダ内の「Return-Path」を確認します。
SMTP通信では、メールが配送される際にエンベロープFromの情報も一緒に引き継がれますが、宛先のメールサーバーへの配送が完了した時点で、エンベロープFromは破棄されます。そのタイミングで、内容が「Return-Path」として変換され、メールヘッダ内に記載される仕組みです。つまり、エンベロープFromを知りたい場合は、「Return-Path」に記載されたメールアドレスを調べれば良いのです。
よく混同される項目として「Reply-To」がありますが、これは受信者が返信を行う際の返信先アドレスを指定するものです。Reply-Toも自由に設定可能ですが、一般的にはヘッダFromと同一のアドレスが設定されています。
それでは続いて、主要なメールソフトでエンベロープFrom(=Return-Path)を確認する具体的な方法を見ていきましょう。
Gmailでの確認方法
1. 受信したメールを開く
2. メール本文右上の3点マークをクリックして「メッセージのソースを表示」を選択
3. 「元のメッセージ」画面を下にスクロールし、ヘッダー内の「Return-Path」項目を確認
参考:Gmail「詳細ヘッダーからメールの経路を確認する – Gmail ヘルプ」(2025/10/30/確認)
Outlook(Windows版)での確認方法
1. 受信メール一覧から、確認したいメールをダブルクリックして開く
2. メールウィンドウ左上の「ファイル」をクリック
3. 「プロパティ」を選択
4. プロパティ画面下部の「インターネット ヘッダー」枠内で「Return-Path」項目を確認
参考:Microsoft「Outlook でインターネット メッセージヘッダーを表示する」(2025/10/30/確認)
まとめ|エンベロープFromを理解して安全なメール運用に役立てよう
本記事では、エンベロープFromの基本的な仕組みから、ヘッダFromとの違い、そこから生じるなりすましメールのリスク、そして実際の確認方法までを解説しました。
「メールが届かない」「なりすましメールと誤判定される」といった課題の背景には、エンベロープFromや送信ドメイン認証などの “見えない仕組み”が深く関わっています。単に「差出人」を設定するだけでは、メールの信頼性は担保されません。だからこそ、メール配信の仕組みを正しく理解し、技術的な土台から見直すことが重要です。
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